レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
「ご迷惑じゃなかったですか?」

 リチャードは、エリザベスより頭一つ背が高かった。見下ろしながら、たずねる声も優しい。

「いいえ、とんでもありませんわ。アディンセル様こそ……こんなお話、ご迷惑でしょ?」

 エリザベスは、ちらりとリチャードを見上げた。彼女の言葉の後半は、聞こえなかったことにしたらしい。ふむ、と心の中でつぶやいて、彼の出方を待つことにする。

「ラティーマ大陸のお話を聞かせてもらえませんか? ――ええと、エリザベス、と呼んでも?」

 婚約の話ではなくて、そちらに行ったか。となると、彼のラティーマ大陸に対する好奇心は本物ということか。エリザベスはにこりとして見せた。

「どうぞ、リズと呼んでくださいな。お友達にはそうしてもらっているの」
「では、リズ――あちらに」

 リチャードは、エリザベスを薔薇園の側にあるベンチへと誘い、二人並んでベンチに腰かける。
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