レディ・リズの冒険あるいは忠実なる執事の受難
 エリザベスはすたすたと歩いていって、勧められた椅子に腰をおろした。組んだ両手を腿の上に置くと、悠々と背もたれに背中を預ける。落ち着き払っているように見えればいい。

 ヴェイリーとエリザベスが顔を合わせたことがない理由は一つだけ。二人の交友範囲がいっさいかぶっていないのだ。
 レディ・メアリの後ろ盾があるということになっているエリザベスは、「あまり近づかない方がいいお嬢さん」ではあるのだが、一応社交界への出入りを許されている。

 ヴェイリーの方は、爵位を持っていないために社交界への出入りもごく限られた場所しか許されてはいなかった。おまけに黒い噂には事欠かない。
 彼に逆らうと不審な事故に遭う――などいう噂がまことしやかにささやかれている白と黒の境界線を行ったり来たりしているような男なのである。

 この男には回りくどい話より正面から挑んだ方がいい。
「ヴェイリーさん……アンドレアスにうちの商品ちょろまかすように命令していたのですって?」
「正確には、上納金を納めよと言ったのですが、ね。レディ?」
「食えない男ね」
 
< 89 / 251 >

この作品をシェア

pagetop