神様のおもちゃ箱
背筋がひやっとした。

もしかしたら俺、殺される…?


思わず身震いした。

冗談じゃない。


俺は辺りが暗くなってきた事もあって、急に心細くなりオブジェに寄りかかってしゃがみ込んだ。

そして、鞄からある物を取り出す。


土星のような形をしたコバルトブルーの容器。

井伏に渡された香水だ。


“それと行く時はこれをつけてけよ。アイツは鼻の利く女だからな”


「んな、犬じゃあるまいし……」



容器を覗き込むと、向こう側が綺麗な海のように光った。


お、きれい。

あおくて。


きらきら――。


綺麗だな。これもまた高そうな代物だ。



俺は一滴二滴、香水を手に取ると、手首やらにそれをつけた。

慣れない香りが鼻をつき、軽くむせ込んだ。


俺は普段、香水なんてつけない。

何だか、息苦しくなる。

電車の中の女がプンプン匂わせてるだけで、鼻をつまみたくなるほどだ。


これが最初で最後だぞ、くそ井伏。


何ともいえない渋い香り。

これは、井伏の香り。

井伏がいつもつけていた香水なんだろう。



もう辺りは真っ暗になり、街のネオンが煌々と輝き出した。

雑踏の音は、ますます膨れ上がり、重なり合った。

そして、何だかんだで何もできずに、それらしい人を見つけられないまま、一時間が経ってしまった。






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