神様のおもちゃ箱

電車が向こうから走ってくる。

次第にスピードが緩み、由紀子さんの迎えが来てしまった。


あの時、あの始まりの日、来なかったカボチャの馬車は

今やっと彼女を迎えに来た。


自然と出た、俺の右手と、由紀子さんの右手。

ためらいながら交わす言葉。


「さよなら」

「元気で」


ぐっと手を握り合った。


ありがとうの印。

未来への約束。

強く生きていくという誓い。


そして、きっと忘れないって気持ち。



由紀子さんは最後まで笑ってた。

最後の最後まで。


彼女を乗せた電車は、すぐに見えなくなった。



ぽつりと取り残された俺を、太陽が容赦なく照らしている。


気がついたら、もう夏なんだなぁ。

首周りが汗ばみ、蝉の鳴き声が耳をつく。



“健吾くんは、青春の人”


―――ありがとう。



目頭が熱くなるのに気がつかないフリして、


「あっちぃーーっ」


空を仰いで叫んで、俺は大きく笑った。


< 132 / 133 >

この作品をシェア

pagetop