18.44m
遥は何も答えられなかった。
首を動かすこともせず、闇に沈んだ足元を見つめる。
4人から視線を感じる。
だから余計に、顔を上げられなかった。
チリリン。
自転車のベルが鳴る。
両国ではない。
遥たちが歩いてきた方向から、自転車に乗った警察官がこちらに寄ってきた。
「おーい、高校生かー?寄り道しないで早く帰るんだぞー」
「はい、すいません」
わざわざスタンドを立てて、両国が頭を下げる。
警察官は5人の顔を一通り見て、商店街の方へ自転車を進めていった。
ケンカをしていると思われたのだろうか。
秋山が「はあっ」と力の抜けた声を出した。
「ここでたむろってると、不良高校生扱いされるな。
清水がどう思ってんのか知らねえけど、このまま川口が練習に来なかったら、おれがキャッチャーをやる。
監督には明日の練習で、それを言うつもりだよ。
バッテリーがぐだぐだしているせいでチームの空気が悪くなるのって、なんかダサいし」
「アキ、川口が来ないって決めつけんな」
「は?バカじゃねえの。
今日来なかったらもう来ねえよ。
よっぽどがあっても戻ってこれねえかもな。
そういうもんだろ、逃げ出すってさ」
秋山が小倉の反論をばっさり切り捨てた。
遠藤が青ざめる。
「秋山、お前」
「じゃあ、また明日な」
小倉の声をすり抜けて、秋山が走り出す。
黒い制服と黒いエナメルバッグは、太い畔道に広がる闇にあっという間に溶け込む。
両国は束の間遥を見たが、ぼそりと「じゃあな」と言って自転車にまたがり、秋山を追いかけた。
電灯の切れた電柱の下に、3人だけが取り残される。
「おれも、帰る」
ずり落ちそうな鞄を肩にかけ直して、遥は小倉たちに背を向けた。
遠藤の焦った声がぶつかってくる。
「清水、本当にいいのかよ。
秋山なんかが、川口の代わりにキャッチャーやるって」
「……そんなの、どうしようもないだろ」
あいつが、グラウンドに来なければ。
本塁に座っておれにミットを構えてくれなければ、もうバッテリーではない。
ちっ。
遥は小さく舌打ちした。
誰かに対してのものではない。
無性にイライラしてむしゃくしゃする。
ムカつく。
胸中にそれを抱え、遥は商店街の明かりを睨みながら、地面を強く踏みしめた。