18.44m
そこで会話が途切れてしまった。
妙な間が耳に刺さって苦しい。
電話を切られてしまうかと遥は焦ったが、そのような音も気配もしなかった。
待ってくれているのか、切りたくても切れない雰囲気で戸惑っているのか。
遥は息を吸った。
まだ、肝心の用件をしゃべっていない。
いつでも、引っ張ってくれたのは駿だった。
今度はおれが引っ張る番だ。
「明日」
少し大きな声が出てしまった。
電話の向こうで「うおっ」と駿が驚いている。
「ビクッた……え、明日?」
「秘密の特訓。
テスト終わったし、おれ、やってるから。
夏の大会でなげるつもりだから」
お前も来いよ。
言いかけた言葉を呑み込む。
無理矢理言ったら意味が無いんだ。
あいつが自分から、『行きたい』って、『野球がしたい』って思ってくれないと。
遥は鼻をすすった。
しょぼい声を出さないように意識する。
「うん、そんだけ。悪かったな、急に電話なんかして」
「いや、全然。……おれの方こそ」
謝んなよ、バカ。
「じゃあな」
「あっ、遥……」
耳から離し、電話を切る。
ついでに電源もオフにしてやった。
だいぶ回りくどい言い方になってしまった。
でも、あいつにはきっと伝わったと思う。
携帯電話を机に放り投げておく。
遥はしばらくベッドにもたれかかって、下についている収納棚を開けた。
グローブオイルやレザーオイルを入れた籠を取り出し、泥落としを済ませてあるグラブを腿に置く。
あいつ、明日来るかな。
来てくれるよな……
首を振り、ぱちんと両頬を叩く。
変な心配を頭から追い払って、遥はグラブを磨き始めた。