恋じゃなくてもイイですか?


引っ越しには結芽と桐生くんが手伝いに来てくれた。そのまま食堂にて飲み会になり、私の新しい生活の始まりに、祝杯を上げた彼らは、気持ちよく酔っ払い、結局、やにれ荘に泊まっていった。


結芽はやにれ荘が居心地がいいと気に入ったらしく、また来るねと翌日、別れる時に宣言して帰って行った。




「はぁ・・・」


引っ越して来てから約1週間。台所で夕飯の準備をしていると、ハルニレがため息を吐いて、流し台の前に手をついた。


「どうしたの?」


落ち込んでいるハルニレを見るのが初めてだったので(かと言って、大爆笑したり、激怒してるハルニレを見たこともないんだけど)、思わず顔を覗き込んだ。


「もぅ、今日で2週間になります」


「ミーちゃんのこと?」


ハルニレは力なく頷いた。ちなみにミーちゃんとは、ハルニレが飼っている(というより、餌付けして手なずけた)茶トラの猫で、私がやにれ荘に内見に来た日から姿が見えないらしいのだ。


仕事から帰って来た私と交代で、私の通勤用の自転車に跨り、今日も夕方のパトロールに出たハルニレ。駅の向こうまで行ってみたけれど、ミーちゃんらしき猫は見当たらなかったらしい。



「事故に遭って、道路脇に転がってないといいけど・・・ミーちゃん、きっとお腹空いてるだろうな・・・」


「怖いこと言わないでよ。賢い猫なんでしょ?猫って1ヵ月くらい食べなくても大丈夫らしいよ。おねだり上手な猫なんでしょ?きっとどっかでご飯貰ってるよ」



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