草食キラーな彼女
どうでも良いことだが、先月までに入部した9人の内5人が2年で、ほぼ全員が他の部と掛け持ちしているらしい。つまり帰宅部の代わりとして入部したわけではないということだ。


(意欲に溢れて結構なことだな……)

タメ同士の会話に混ざることは無いものの、同じ教室にいれば嫌でも会話が聞こえてくる。なので自然と後輩たちの情報が頭にインプットされてゆくわけで……
部活の新メンバーの顔と名前と性格をおおむね把握した頃には、浮ついた部活の空気にもだいぶ慣れきたという感じだ。
6月も半ば――日によっては真夏日を記録するほど暑いくせに、台風がきたりで豪雨もある。不安定な気候で体調を崩しやすいこの時期だが、PC教室は今日も快適な空調だ。期末試験を間近に控え、一般の生徒は間もなく試験休みに入ろうとしている。もちろんコンピューター部も例外でなく、3日後から試験休みに突入する。そんな貴重な活動日――試験範囲が発表されたばかりなのか、今日の後輩達はいつも以上に落ち着きがなく騒がしかった。


(テスト範囲の相談ならどっか別の場所でやってくれればいいのに……)

パソコンを前にして教科書を広げまくる姿に眉をひそめる。


(わざわざ部室に集まる意味がわからない。涼しいからか?)

そんなにテストが気になるならサッサと帰ればいいのに、とすら思う。基本的に活動日は個人の判断に委ねられているのだから、休もうと思えばいくらでも休める。特に連絡の義務もない。
なにしろ基本的にはロンリーワーク。他の誰かが居ようが居まいが関係ない。作業の内容も、分野が違えばいくら先輩といえどもアドバイスできることは無きに等しい。自分の道は自分で切り開いてゆかねばならん厳しい世界なのだ!(嘘)

ギャーギャーと騒がしい集団を傍目にしていると、苛立ちを通り越して悲しみが込み上げる。


(ああ、いつからこの部は男子生徒の溜まり場になってしまったんだろう……嘆かわしい。
いや、俺が悪いのか。そうだよな……これぞ自業自得。
二兎追う者は一兎をも得ずってやつか。あ、違うか……)

この悲しい現実をいまだに受け入れられず、うじうじと悩む隆。そもそも前年度の新入部員はたったの一人だったのだから、今年も期待する方が間違っていた、と言えなくもない……だからといってこの結果は酷すぎるだろう!と堂々巡りを繰り返していた。


(はっ……もしや、これは分不相応な願いをしてしまった報いなのか!?)

昨年は待望の女子部員が1名入部。しかもその子がけっこう可愛い女のコだったもんだから、ついうっかり「今年も」と願掛けしてしまった。


(だけど……確かに……)

よくよく考えてみたら、こんなマイナーで、消極的に活動している部活にわざわざ入ろうなんていうやつは、堅物か根暗かオタクか物好きと相場が決まっている。きっと彼女は変わり者の部類に入るのだろう――それなら今まで通り部員数は少ない方が静かでいい。


(図書室みたく「私語厳禁」の張り紙をしてやろうか……!)

そんなことを思ってしまうほど、最近の部室はさざめきが途絶えないのだ。


(慣れてはきたけど、歓迎できるものじゃないしなぁ……かといって後輩に指示を出せるほど、序列や歴史を重んじる部でもなし)

というよりも。
単純に、地味な部の地味な部長である速水 隆には規律を守ろうという意志もなければ度胸もないのだった。

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