代わりモノ
第一章
第一章
四月。
桜の季節。
私は岩谷 宙(いわたに そら)。
この春で中学二年生だ。
もうさっそく後輩が入ってくることに胸を弾ませている。
「ねえ宙、聞いてるの?」
私はハッと我に返った。ボーっとしていたようだ。
「あ、ごめんごめん…」
その話し相手は私の親友、宇羅香だ。
「もー、宙この頃ボーっとしすぎだよ…」
今日は四月になって新年度、まだ春休みだが午前中に部活があった。
入学式に向けての練習だ。
入学式では新入生でもわかるような今流行りのJ-POPの曲をやるらしい。
まあ、私はその曲のことなんて知らなかったが。
吹奏楽部で吹くと聞いて、初めてその曲、そのグループを知ったものだ。
そういえば、春休み、部活があるまで何十回も聞いたなー…
何百回かも…?
「宙!どこ行くの!ここ学校だよ!」
またボーっとしていたらしい。
「あ!ごめん、宇羅!」
四月のはじめなのに散りかけた桜が目に入る。
「あー、もう二年生なんだ…先輩なんだ…」
「そんなこと言って宙は、楽しみなんでしょ?後輩ができるのが!」
独り言でつぶやいたつもりだったが、宇羅はしっかりきいていたようだ。
「てへぺろ♪」
そこからなんだかんだ話しているうちに音楽室の前まで来た。
「今年度も一年間よろしくお願いします…」
音楽室の前でぶつぶつつぶやいている人がいた。
…とりあえずスルーしようかな。
「しつれいしまーす」
「しつれいしまーす」
宇羅も同じことを考えていたようだ。
しばらくして、さっきの人が入ってきた。
その人は、パーカッションの三年生の先輩だ。
変わり者ということもあって、後輩たちからはあまり好かれていないようだ。
でも、あいさつはしておく。
「おはようございまーす」
「おはようございまーす」
私に続いて、みんなもした方がいいのかと遠慮がちにあいさつをしていた。
9時。部活が始まる時間だ。
さあ、新年度初めての部活が始まるんだ…!
そう期待して周りを見渡すと…
みんな眠そうな顔してるなー…
ではなく!
部長が…いない!!!
ふと三年生の方を見ると、ゆるゆるとした感じでもめていた。
きっと誰が部活を始めるように声をかけるか決めているんだろう。
「聞いてください」
「はい!」
部活が始まるときのいつものやり取りだ。
…副部長が嫌そうな顔で話している。
「今日は久しぶりですが時間がないので合奏だそうです…。
じゃあ、セッティングしてくださーい…」
「はい!」
みんながいきなり動き出した。
「ほら、宙!セッティング!」
「うん!」
そうだ。自分の仕事があるんだ。
私はセッティング担当の仕事がある。宇羅も同じ仕事だ。
自然と分担されたようで、私はスピーカーを持っていって高いところまで上げなければいけない。
「宇羅、手伝って!」
二人で苦労してスピーカーをあげる。
結構重いんだよねコレ…
なんだかんだやっているうちに、すべてのセッティングが終わったようだ。
「合奏は20分後に始めるので、それまでに音出しと基礎を済ませておいてください。」
「はい!」
あ、部長、いつの間に?
まあ、遅れた理由は考えないようにしよう…
「そーらっ!」
「うわっ!」
後ろから飛びついてきたのは同じサックスパートの花蘭だ。
「ほら、宇羅も!楽器取りに行こう!」
相変わらず強引だ。
宇羅と目を合わせる。
宇羅もあきれているようだ。
…変わってないな。
そして、楽器がある倉庫の前についた。
「鍵!シャキーン!」
「花蘭、時間無いから急ごうよ」
花蘭は少しすねた顔をして鍵を開けた。
さあ、急いで楽器を出さなきゃ…

合奏が始まった。
ホルンの先輩が今日は不調のようだ。
「ほら、前の三年生なら楽にできてるところだぞ」
どうして前の三年生と比べるのか…
みんなもきっとそう思っているはずだ。
「そういえば定期演奏会、優也先輩のソロすごかったよね…」
そんな話が聞こえてきた。
今は合奏中なのに…
でも私はそのことよりも、その内容を気にしていた。
優也先輩…!
忘れようとしていた思い出が、よみがえってしまった…
今日は一人で帰ろうかな…

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