【彼女のヒミツ】
里子は自分をひどい奴だと思っているだろう。中尾を罵倒した現場も見ているに違いない。

───仲間くんは良い人だよ。

不意に夏休み最後の日に里子がいった言葉が甦る。

「どこがだよ」

礼二は宙に向かって呟いた。自分は良い人間なんかじゃない。眼鏡を乱雑に外した。

周りの状況や評価を気にして、自身の尊厳を守り、他人の目を常に気にしている偽善者さ。

クールで知的なのも、装っているだけ。女性の裸に興味あるし、毎日のように自慰に耽っているウキウキのお猿さ。

玲が自分の誕生日を口にした時、すぐ頭にインプットしたいがために覚えた方法は何だと思う?

彼女の誕生日は十二月六日。ワン、ツー、シックスと英数字に転換し、

シックスをセックスに置き換え、ワン、ツー、スリーをもじって、ワン、ツー、セックスって覚えたんだ。

一、二も先にセックスをしようって語呂合わせたのさ。これにより玲の誕生日を一瞬で記憶できた。

「ははは」

礼二は視線を砂利道に向け、自身を皮肉るように笑った。

自分に友達を作る権利はない。そう思った時、背後に気配を感じた。

礼二はゆっくり振り返った。彼は俯いていたので、最初に目に飛び込んできたのは制服のスカートだった。

セーラー服。

うちの生徒じゃない。

そう思い視線をあげ目を細めると、そこに立っていたのは水谷 玲だった。

丁度彼女のことを考えていただけに、どぎまぎした。

「やっぱり仲間くんだったんだ」玲の第一声だ。

「向こうからきたんだけど」彼女は杉箕橋の西向こうを指差し

「仲間くんらしき人がいるなぁって思って来てみたの。

でもまさかって…違ったらどうしようと、なかなか声かけられなかったけど、仲間くんが振り向いちゃったね」玲は笑顔をみせた。

夕日が彼女の顔を山吹色に染め、明るいセピア写真を見ているようだった。

「きれいだ」

礼二は思ったことをそのまま口に出していた。

「え?」

玲は数回瞬きした。

「あ………」礼二は少し間を置いてから、玲に背を向け「夕日が」と答えた。途端に心臓が高鳴ってきた。

玲は眩しそうに夕日をみると「ほんとだね」しみじみと云った。





< 50 / 63 >

この作品をシェア

pagetop