ゆとり社長を教育せよ。


……こんなの社員に聞かせたら、みんな会社辞めちゃいそうだと思った。

それか、臨時の株主総会でも開かれて、退任を迫られちゃったりして。


私だって、目の前のダイニングテーブルがもしもちゃぶ台なら、昭和のお父さんみたいにひっくり返したいところだ。

そうできないのは、テーブルがちゃぶ台じゃないのと、それから……次に続く言葉が、ポジティブなものであると信じていたからだ。


「……でも。毎日真剣に俺のこと叱る美也を見てたら、それじゃダメなんだって思えるようになった。他の秘書は、怒る前にもう諦めてたって感じだったのに、美也だけはいつも全力で俺にキレてくれて」


……これは、褒められているのだろうか。

わからないけど、私のお説教が充の心に響いていたのなら、まあいいのかな。


「美也さ、高柳にも本気で説教してたでしょ? あれ、たぶん周りにいる人みんな感動してたと思うよ。怒るのってエネルギーいるし自分の心にもダメージあるから、結構みんな避けるものだもん」

「そうなのかな……」

「うん。少なくとも俺は感動した。こんな一生懸命なひとが自分の秘書って、すごく幸せなことなんだなって」


真正面からそんな風に言われると、照れるじゃない……。

思わず視線を泳がせる私を見てクスッと笑った充は、それから真面目な顔になって、再び口を開く。





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