ゆとり社長を教育せよ。


「――ゴメン、遅くなって」


しばらくして、スマホをバッグにしまってうつむいていた私の元へ、飲み物を持った充が戻ってきた。

湯気の立つカップをテーブルに置いて、椅子に腰かけた彼は何度か瞬きをしてから私に問いかける。


「なんか、顔色悪くない? 気分悪い?」

「……ううん。平気。充のこと待ってたらお腹すいちゃって」

「先に食べててもよかったのに」

「そ、そうだよね。……ねぇ、今まで誰と話してたの?」


名刺交換までしていたのだから、あの男性はきっと素性のはっきりした人のはず。

そこから犯人につながる手がかりがわかれば……


「ああ、なんか俺自体は面識ないんだけど、親父が社長だった時代に世話になった人らしい」

「ふうん……どこの会社の人?」

「聞いたことない会社だったな……気になるなら、名刺見る?」

「ううん、いい。ちょっと聞いてみただけだから」


ふるふると首を横に振って、小さなケーキにフォークを刺した私。

……ダメだ。手がかりゼロ。

聞いたことない会社――それはきっと架空の会社なんだろう。名刺も、おそらく偽物。

ただのいたずらにしては手が込みすぎてる……
でも、そこまでする理由は?


せっかくの楽しい時間だったのに、甘いものを楽しむ気分なんてすっかりどこかに消えてしまった。

口に入れたケーキも、美味しいのか美味しくないのかよくわからない。


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