ゆとり社長を教育せよ。
13.犯人の尻尾

-side 加地充-



このところ、次々と自分の身におかしな災難が降りかかっている。

最初の頃は、俺って最近ツイてないかも――くらいのレベルに思っていたけど、どうやらそうじゃないらしい。


マンションの駐車場に置いてあった車が二台ともパンクさせられて使えず。

その時点で、自分は誰かに恨まれてんのかなと予想はついていたけど、さらには駅で背中を押される寸前、犯人と思われる人物が耳元でささやいたのだ。


『僕の美也ちゃんに手を出した罰だよ』――なんて、至極気持ちの悪い声で。


線路に身体が落ちて行く一瞬の間に、俺はその声を必死で自分の記憶のなかで聞いたことがないかを思い返し、そしてピンと来たんだ。

美也に気のある“アイツ”が、今こうして俺の背中を押したんだ――って。


でも、彼は俺を殺す度胸はなかったらしく、俺が落ちたのはちょうど電車の来ないタイミング。

そんな“小心者”な面も、犯人が彼であることに確信を持つ材料だった。


ただ、腑に落ちないこともある。

俺に対する嫌がらせは、大半が会社の中で起きている。

部外者の彼が簡単に潜り込めるほど、ウチの会社のセキュリティは甘くない。仮に潜り込めたとしても、役員専用の階をウロウロしていたら、目立ってすぐに見つかるだろう。


つまり、犯人は彼一人じゃない……そしてその人物は、会社内部の人間……役員の中の誰かか、あるいは秘書……


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