ゆとり社長を教育せよ。


「高梨、お前ホント危ないからコンビニ戻れ!」


彼が説得をしている間に、俺は車のキーを出して席から立ち上がる。

その瞬間、スマホを耳に当てたままの霧生さんの表情が、一気に険しくなった。


「もしもし高梨……? 返事しろ返事!」

「どうしたんですか?」

「くっそ…………切れました」


苦々しく呟いた霧生さん。俺たちは無言で頷き合うと、上着を着て店を出た。

車を停めてある近くのコインパーキングにダッシュで向かいながら思い出すのは、無言電話のあったあの日のこと。


もし自宅の場所を知られていたら――それを考えて、いつも強気な美也が怯えていた。

ゴメン、美也……肝心な時に不甲斐ない俺で……


「場所、わかるんですか?」

「美也の家なら。とりあえずその近くのコンビニを検索して……」


車に乗り込んだ俺は、ナビの画面に手を伸ばす。

そのとき、ズボンのポケットでスマホが音を立てた。

慌てて確認した画面には、【着信 高梨美也】の文字。


「もしもし、美也……?」


助手席の霧生さんと目を見合わせながら電話に出ると、その向こうから聞こえた声は美也のものではなかった。



『……しつこいよ。別れたんでしょ、きみたち』

「お前……っ」



電話越しにでもすぐにわかった。

昨日、俺の背中を押した男と同じ声だと。



< 129 / 165 >

この作品をシェア

pagetop