ゆとり社長を教育せよ。

「やっぱり怖いなー、高梨さん。ちなみに正解は?」


……言いたくない。

でも、送ってもらってるっていう借りがあるしなぁ。

しばらく葛藤してから、私はぼそりと呟いた。



「……………社長、秘書」



とても恥ずかしいけれど、そんな夢を抱いたのは、中学生の頃に読んだ少女漫画の影響だった。

ものすごいイケメン社長に見初められた地味な女の子が、社長の手によって可愛く変身を遂げ、仕事に恋愛に悩みながらも素敵な女性へと変身する……

というありがちなシンデレラストーリーに感銘を受けてしまった私は、「絶対社長秘書になる!」と学生の頃から意気ごんで勉強をし、その甲斐もあって、今の自分がある。


しかし実際会社に勤めてみると、重役にそんな若いイケメンが居るはずもなく……

いや、今ひとり隣に居るけれど、頭はからっぽのイケメンだし。

あれは所詮フィクションなんだと、早々に現実を受け入れたのだ。



「すごいじゃないですか! 夢が叶ったんだ」

「……そうですね」



なりたかったのは、ものすごい敏腕(仕事も恋愛も)社長の秘書であって、決してゆとりくん専属保育士ではないんだけどね。

……と説明するのも面倒なので、とりあえず頷いた私に、無邪気な園児は言う。



「俺はコームインでした」

「……コームイン?」

「そ。安定しててちゃんとお休みがもらえて、定時に帰れる仕事がしたかったんです」



……ああ、公務員ね。

ゆとりくんの口から出ると、なんか新しいお菓子の名前か何かに聞こえたわ。


……って。代々会社を経営する一族の息子に生まれながら、公務員ですって?

なんでわざわざそんな地味な道を……


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