ゆとり社長を教育せよ。


「今夜、うちにゴハン作りに来てください」


ああ、なんだ、残業ってそんなこと――って、え?


「なんですかそれ」


私は思いっきり眉根を寄せて社長を睨む。


「……そんな嫌そうな顔しなくたって。社長の栄養管理も、秘書の仕事じゃないですか?」


栄養管理……ねぇ。

このポンコツ社長に、昔から“頭が良くなる”と言われてるネギとか、DHAの多い青魚を大量摂取させてみるのもまた興味深い実験……じゃないわよ!

なんで私がそんなことまで……


「それはご自分のお母様か、恋人の方に頼んでください」


ため息交じりに呟くと、困ったように小首をかしげる加地社長。


「だって今は実家じゃないし。恋人もいないんですもん」

「だからって――!」

「俺、目玉焼きの乗ったハンバーグがいいです。うちの冷蔵庫には何も入ってないんで、帰り一緒に買い物行きましょうね」


人懐っこい笑みでそう言うと、社長は舞台袖から控室の方へ下がっていってしまう。

人の話を聞けー! っていうか、そのリクエスト子供か!


いくら社長の私生活に口を出すと言っても、家に上がり込んでご飯を作ることがゆとりくんの成長につながるとは思えないし、黙ってバックれてもいいかしら?


それに何より……私、料理苦手なのよね。

唯一作れる料理(?)は卵かけごはんっていうレベルの低さのせいで、今まで付き合った男性陣を軒並みがっかりさせてきた歴史を持つくらいだ。


そのことがバレるのも癪だし、社長の提案は却下。今日は通常業務が終わったらさっさと帰ってしまおうっと……


< 40 / 165 >

この作品をシェア

pagetop