ゆとり社長を教育せよ。

――そうだとしても、俺と高梨さんが結ばれる可能性って、極めて低い。

俺の相手は父親が勝手に決めるんだろうし、それに逆らったところでどうせいつもみたいに俺の話には聞く耳を持ってくれないんだろうし。


「めんどくさいですよね、恋愛って」


だったらこの気持ちはどこに向かわせればいいんだろう。

そう思って投げやりな言葉を吐き出した俺に、高梨さんは言った。


「……それでも人を好きになるのが人間だと思います」


仕事中の高梨さんからは予想もつかない台詞。

だけど、やっぱり本当の彼女はロマンチストなんだ。

それを確信すると、俺を睨むその顔も、冷めた物言いも、可愛く感じられてくるから不思議だ。


たとえ、結婚相手や恋人になってもらうことができなくても、やっぱり彼女のことを側に置いておきたい――そんな想いが膨らむ。


――だけど、困ったことに……

高梨さんの魅力に惹きつけられるのは俺だけじゃないらしい。


ダーツバーで見かけた男に、取引先のハゲ親父(俺は密かに社名とかけてサンシャインと呼んでいる)、そして彼女と同期らしい開発部の男まで彼女にちょっかいを出してくる。


彼氏でもない俺に嫉妬する権利があるのかどうかはわからない。

だけど、どうしても苛立ちが抑えられなかった俺は、高梨さんにこう提案した。



「俺の秘書でいる間、恋人作るの禁止――って、どうですか?」





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