私んちの婚約者
「わ、わかった!あの性悪兄貴に脅されたんでしょ?私なら大丈夫だよ?」

「違う。梓、ごめん」

愁也が断ち切るように、私の両肩を掴んで自分から放す。

「愁也……?」

「梓とは、居られない」

何を、言ってるの?
何を、言ってるの!


背後にカツンと硬い靴の音が響いて、見れば蓮也が部屋の入り口に立っていた。

「愁也は神前グループを継ぐことになった。役員達に認められるためにも、お前みたいなちっぽけな小娘が婚約者じゃ役者不足なんだ」

彼は私にそう言葉を投げかけた。
そのまま冷徹に笑う。

「愁也にはもっと由緒正しい女を婚約者にしてやるよ」

「蓮「ふざけんなボケぇえ!!」」

愁也が彼を止めようとするより早く、私が花瓶を引っ掴んで、蓮也に向かって投げつけた!

彼は難なくそれを避けて、眉をひそめる。
チッ、外したか!!

「野蛮な女だな」

余計なお世話だ、この悪党――!!

「透也!そっちのランプ寄越しなさいよ!あの悪魔を一秒で地獄に返品してやるわああっ!!」

透也はオロオロと兄と私を見比べた。
馬鹿透也、モタモタすんな!



「梓」


あ。


なおも蓮也に掴みかかろうとした私を、愁也が呼んだ。
いつかも聞いた、『止めなさい』の意味の。

だけど。


「イヤだもん……」


愁也の顔を覗き込む。
彼が苦しそうに目を逸らした。


「イヤだよ……!」

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