私んちの婚約者
項垂れる彼の頭に子犬の耳の幻覚が見える。いかんいかん。
でもなあ、きゅうん、と垂れた尻尾まで見えてきたぞ。

「ん~~」

なんか、ちょっと可哀想……だよね。
私は“愁也奪回大作戦”でお世話になったことだしさ。

よくよく考えれば、愁也を取り戻せたのは、彼のおかげと言ってもいい。
……空気読めない箱入り坊ちゃまでも。

「梓?……うわなにその顔。ダメダメ、元のところへ捨ててらっしゃい」

愁也が私の顔を覗き込んで、言った。
捨て犬を拾って来ちゃった小学生か、私は。

「よく考えろ?面倒に巻き込まれるのは、二度とごめんだし、だいたいコイツがいたら心ゆくまでイチャつけないぞ?」

「……それは大問題だね」

その会話に、透也がガックリと肩を落とした。
目の前でうなだれる透也に、私はちょっと考えて。テーブルに広げていた資料を取り上げて、パタパタと振った。

「ねぇ。“次代に提唱する教育理論”についてのレポート、書ける?」

透也は顔をあげてキョトンと私を見た。

「ああ、多分。俺大学のときは論文で賞取ったりしてたから」

ええぇ~!?意外!

「じゃあさ、レポート!手伝ってくれるなら泊めてあげる」

「梓、ズルは駄目」


すかさず飛んできた愁也のツッコミ。
ぶー。

「じゃあ、八割だけ手伝ってもらう!」

「割合の問題じゃないし。だいたい譲歩して八割なら、一体何割手伝わせるつもりだったわけ?」

厳しい愁也。
ちぇっ、全部やらせようとしたの、バレてんな。

その様子を見ていた透也がふん、と口を尖らせて言った。

「要はとにかく俺が梓に近づくのが気に入らないんだろ?」

「その通り」

……そうなんだ。
や、ヤキモチですかねえ!それは!!

ついついにやける顔を押さえてしまう。
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