私んちの婚約者
「うわっきゃあ!」

とっさに踏ん張ろうとした足が滑り、前のめりになった私を透也が抱きしめた。
そのままソファに押し倒される。

「むぎゃ!」

「変な声……」

悪かったわねぇえ!?


「何やってんの、透也?愁也に殺されるよ?」

「うん。だろうな」

淡々と呟く彼は、いつもの透也じゃないみたいで、ちょっとーー怖い。
怯えを隠して、思ったより近くにあった彼の顔を睨みつければ、透也は更に私へと顔を近づけてくる。

そうはいくかっ!

頭突きしようとした額を、透也に押さえられた。

「俺だって同じ手は喰わないよ」

ああっ学習しやがって!
この技を防ぐとは腕を上げたわね!!
何か違う意味で悔しがる私を、透也は切なげに見つめる。


「結婚、するなよ」


あ。

やばい。

「やめて」

ダメだって。
私あんたの顔に弱いんだから。

その顔、反則だ。

やっぱし殴らないとだめかな、これは。
ぐっと握った拳を、透也の大きな手が押さえた。
……ことごとく学習したな、コイツ。


「……とう、や」


呼びかけて、思わずぎくりとする。


透也の目。

愁也にそっくりな、私を絡めとる目。


ちがう、まるで愁也そのものの――


「梓……」


優しく響く声は、愁也の呼び方。



その唇が、私に降りてきた。
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