私んちの婚約者
「ねえ、探しに行こうよ……」

見下ろした先にある愁也の髪を撫でながら言ってみる。

(うわ、気持ちいい)

さらさらの黒髪が、指の隙間から溢れて心地良い。

「愁也の弟ってことは、私の弟でしょ。おねーさん放っておけないよ」

「俺の、弟だから?透也だから、でしょ」

「それ、ヤキモチ……だよね」

私の腰に回された愁也の腕に力がこもる。
ちょうど私のお腹あたりに抱きつくような格好になっている彼を見下ろせば、髪の間から、伏せられた長い睫が見えた。

ど、どうしよう。
そんな場合じゃないのに、なんかキュンキュン来るんですけど。
……ぼ、母性本能とか、くすぐられちゃってるのかしら。
ますます多芸になるな、このひとは。

「透也だからだけど、でも愁也と同じ顔してなかったら、こんなに気にしなかった。それに……」

愁也も本当は、気にしてるくせに。

そう言いたくて、でも言わなかった。
きっと伝わってるから。

俯いたままの彼が気になって、じっと言葉を待ってみる。

……。

……。



「はっきりせんかああっ!!」

短気でごめんなさい。耐えられない、この沈黙。

「……っは」

愁也が笑い出して、顔を上げる。
その顔にもう、切なげな色は残っていなかったことにホッとした。

「はいはい、わかりました。……俺は婚約者殿に絶対服従だからね」


……嘘ばっかり。
こっちのセリフだ。
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