私んちの婚約者
言い捨てて、私は身を翻す。
フロアを一気に抜け、ズンズン音が立ちそうなほど怒りに任せて足を運んで、足早にビルを飛び出した。
どっちから来たのかも忘れて、どんどん進む。

……前にもこんなこと、あったっけ。
結局私は何も成長してないんだ。
小学生みたいにわめき散らして、逃げ出して。いや、今時の小学生のほうがよっぽど大人かもしれないな。

でも。
でも!!

「婚約だの、結婚だの、もうめんどくさいわ!!」

意地になってる私は、ピッツェリアもジェラテリアも目に入らず。
何人かナンパしてきた男共には鉄拳を食らわせて。
坂を上がって、曲がり角をいくつも曲がって。
早足で歩いて、歩いて。
歩き続けて。


「……ふぇ、……っ」


やがて涙で前が見えずに、先に進めなくなって。
ついには足が動かなくなる。

「……っく、……」

もう、何も見えない。


……私はその場に立ち竦んだ。

「うぇ……っ」


なんでだろう。
私謝りに行ったはずなのに。
なんで、こうなっちゃったの?


「愁也ぁ……っ」


通りの真ん中で、子供のように泣く私。


無理だ。

腹が立っても、恋しくて、ただ、逢いたくて。
それだけなのに。

ううん、……それだけ、じゃない。
それだけじゃ、もう足りない。
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