私んちの婚約者
「あ~今回も不作だったわ~」

大学の構内をぶつくさ言いながら歩いて、カフェテリアへ向かう。
今日のお昼はランチボックスでも買おうかな。
一人で食べるのは味気ないから、悠か誰か呼ぼう。


親友の梓が結婚して、イタリアに行っちゃってから3ヶ月。
あたしはなんとなくつまらない毎日を送っていた。

梓と婚約者――彼氏の話を聞いてたときは楽しかったけど、
いざ旦那様になると、なんだか梓を奪られたみたいでおもしろくない。

オンナノコは勝手なものなのよ。


中庭を横切った時、ふと女子のきゃああ、という悲鳴、いや歓声が上がった。

「何かしら」

芸能人でも来てるの?

背伸びして覗けば、人だかりの先には。

愁也さん……?いや、違うわね。

「……神前透也?」

梓の旦那様、愁也さんの異母弟。彼にそっくりな、同い年の弟。
そいつが学生棟から出てきたんだ。
透也はあたしに気付いて、近寄ってくる。

「久しぶりだな、マキ」

「あんたこんなとこで何してんの?」

見た目は王子様(いや実際御曹司なんだけど)な彼に、周りの女生徒の目の色が変わっている。
あたしに突き刺さる視線が痛いんですけどぉ。

「前に梓の代わりに書いた論文の件がバレてさ。でも内容を評価してくれた教授が、俺に助手をやらないかって。今説明受けてきたとこ」

へぇ~。

「やるじゃない、スネちゃま」

「スネちゃま言うな」

透也はムッとした顔で私の額を小突く。

「昼まだだろ、奢る」

彼はあたしの手から教科書の束を取り上げた。
女の子に荷物を持たせない、ってことかしら。
こういうとこはさすが育ちの良いお坊ちゃんよね。

ヘタレだけど。

「……お前今、失礼なこと考えただろ」

「あら何の話かしら」

「絶対、考えただろ!」

ふん、マイナスオーラに鋭いヤツめ。
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