私んちの婚約者
ガキが、と笑われるかと思ったのに、愁也の顔は苛立ったままだ。
その瞳が私を射抜く。


「梓、俺の婚約者だよね?
他の男を誘惑してないでさぁ、

……俺を色仕掛けで繋ぎ留めてみせてよ」



その、瞳に。
その、言葉に。

私の心臓がドックン、と音を立てる。


「それはあんたの得意技でしょうが!!!」


畜生、男のくせに!!
なんだそれ、フェロモンですか!?
垂れ流しですけど、少しは出し惜しみしろ!


動悸を誤魔化すように、私は早口で言う。

「そういうのは、三崎さんだっけ、あの美人OLとかにしてもらいなよ!」


ぎゃああ、私何言っちゃってんの。
これじゃまるで。


「ヤキモチ?」

「違うわぁあっ!!」


時すでに遅し、愁也の口元に笑みが登った。



しまった。

自意識過剰の俺様男子を喜ばせてしまった。


さっきまでのぷんぷんタイムはどこいったんだ。取り戻して来い。そんなニヤニヤされるくらいなら、怒られてるほうがちょびっとはマシだ。ちょびっとは。


私は悔しくて呟く。

「私に色気とか要求するの、無理だってわかってるでしょー……う?」


愁也の指が、私の頬に触れて、その目が私を覗きこんだ。


「案外、そうでもないかも、よ?」



ゆっくりと、彼の長いまつげが伏せられて。


だんだんと、綺麗な顔が近付いて。




ーー柔らかな唇が、
私に重ねられた。
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