隣のチャラ男くん
【無自覚初恋編】

隣のチャラ男くん

「あっ、やっ、……慎吾、もうダメッ……!」

薄い夢見荘の壁越しに聞こえてきた、あられもない声に、真白は枕にぼすんと顔をうずめた。

「……」

眠れないんですけど。
どうにもこうにも眠れないんですけど。


「やん、慎吾ぉ、やだぁ」


……あの、あほ慎吾。

鼻にかかった甘い声がひっきりなしに飛び込んできて、薄い布団を頭まで引き上げる。
あの、アホ。いい加減にして、もうマジで。

お隣さんのチャラチャラへらへらした顔が脳裏によぎって、真白は悶えた。


「もうっ……無理、死んじゃうっ」


いっそ死んで。内心そう毒を吐きながら、真白はすべての元凶のような気さえしてくる薄い壁を後ろ足で蹴りつけた。いや違う。元凶は、隣の家のチャラ男だ。


「それくらいで死なないっての、ばか」


まぁ、あたしはセックスなんてしたことないから知らないけども。
生まれてこの方18年、清く正しく処女を守っておりますけれども。


一応の静けさを取り戻した暗闇の中で、真白は枕元に置いていた携帯電話を手に取った。
午前3時。

――有り得ない。
あたしは毎日日付が変わる前に寝たいのに!
げんなり項垂れて、真白はそのまま枕に顔を擦り付けた。



そんなわけで、城崎真白は、今日も今日とて眠れぬ夜を過ごしてしまったのだった。




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