学園物語
はじまった物語

1

ガヤガヤとしていたさっきまでの雰囲気とは違う。
一切の声を消したように静まり返った空間。どこかピリピリとしたものも感じる。
それは保護者同士のプライドか、教員たちのこれからかかるプレッシャーへの不安か。
はたまた同じホームとなったライバルたちへの圧の掛け合いか。
4月の、まだ桜が咲き乱れている春麗な陽気な日のはずの今日。
まるで場違いな程に空は晴れ渡り、鳥のさえずりさえ聞こえてくる。
これが、有名校の入学式というものなのか。
刃は居心地の悪さを全面に感じつつ、面倒そうに椅子へと腰掛ける。
「ふわぁー」
隠す事なく、堂々と大口を開けた欠伸。
それが例え大事な式の途中だったとしても別に構いはしない。
ほとんどの学生が聞いていないであろう来賓者のお祝いの言葉だ。
そんな時は絶好のうたた寝タイム、と勝手に決めた。
刃はもう一度大きな欠伸をかまし、浅く座り直し眠る体制へと移ろうとした。
だがしかし、視線が気になるわけで。
右隣に座る人物がやけに睨んできていた。
真面目一本で生きてきたという様な綺麗な坊主頭で、背筋が曲がる事を知らないのかという程伸びた姿勢の良さ。
がたいからして、将来の夢は野球選手ッす!と言いそうだ。
対してこちらは髪をワックスで適当に乱して決めて、大事な式の間欠伸ばかりしている。
服装も第2ボタンまでダラリと開けた、傍から見ればチャラい男。
ただ名字の言葉が近いというだけで、まったくの正反対の人物が隣同士で座る事となっている。
(居心地悪・・・)
口をへの字に曲げつつ、深く溜め息をついた。
その態度に、横の野球人(あだ名決定)がイラつき拳を握りしめる。
握りしめる際に身体全身に力が入り過ぎたのか、がたっと小さな音ではあるが椅子の足が動いてしまい体育館に響いた。
すると誰も何も言っていないのに、野球人は慌てて前を向いて座り直した。
いつもならここでダッセーと笑い飛ばすものであるが、いかんせん眠い。
自身の髪をクルクルと指で弄りつつ、やはり襲ってくる睡魔には勝てずに瞼は閉じていった。
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