冷凍保存愛
「おまえなにしてるんだ」
小堺はびくりと肩を震わせ、手に持っていたノートを破いた束を雑に落とした。
「そこ、おまえの席じゃないだろ」
小田原は怪訝そうな顔をしながら教室の前のドアから入り、小堺が机の上に出しているノートやプリント類に目をやった。
「いえあのその、いや、なんでもないんです」
急いで紙の束をまとめて隠すがその手を小田原の手が抑えた。
「山際のノートだなあ」
小堺を睨む小田原の顔にはなぜこんなことをしているのかという懸念の色が浮かんでいる。
「これは……」
「山際の調べものか。個人情報だぞ。それにこれは何かおまえに関するもののようだけど、そうなのか?」
紙切れになったノートの切れ端に『小堺』の文字、小堺のバイト先などが書かれていたのでそう推測したのだろう。
「すいません先生! ほんとにごめんなさい」
深く頭を下げて震える小堺は拳を握りしめている。
「なんで山際はお前のことを調べてるんだ」
「それは……きっと僕が気持ち悪いからだと思います。クラスのみんなもそう言ってるし、成績だって一番下だし、だから何かしら見つけ出して追い出そうとしているんだと思います」
「追い出す? そんなことできるわけないだろう。生徒の一存でクラスが変わったりなんかしないぞ」
「そうですが、きっと山際さんは僕を追いつめようとしているんだと思います。その証拠を集めてるんだと思います。だからっ」
「だからといってこれはよくないぞ。やっていいことと悪いことがあるだろ。これはダメなやつだ」
「せ、先生! そんな、ほんとにごめんなさい、なんでもするので山際さんにだけは言わないでください。お願いします。お願いします。お願いします」
深く頭を下げ続ける小堺は全身が震え、涙と鼻水を床に落としている。