冷凍保存愛

 ことあるごとに小堺に近づく道子に気付いてはいても小堺は何食わぬ顔で対応した。

 明らかに自分を疑っている。

 小田原が言った通りになった。

 でも、先生は守ってくれると約束した。だから大丈夫だと自分に言い聞かせていた。

「山際ー、ちょっと来ーい」

 小田原が間延びした声で廊下から道子を呼んだ。

 廊下へ歩く道子の背を本越しに追い、廊下で何かを話している声をとぎれとぎれに聞いた。

 クラスメイトの声がうるさくて内容までは気聞きとることができなかった。

 いつものように小田原が道子の頭にポンと手を置き、笑いながら廊下を歩いて行った。直後、道子が複雑な顔をしながら戻ってきた。

 ちらっと小堺の方を見たが、それだけで何も言うことは無かった。


 それ以来、道子がノートの件について何かを口にすることは無くなった。



 やっぱり先生は約束をちゃんと守ってくれる。

 
 小堺は心がふと暖かくなるのを感じた。


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