愛を欲しがる優しい獣
(そうよね)
例えば、私が美人で色気もある魅力的な女性だったら、彼の隣に並んでも見劣りしないだろうが。
現実はこうだ。
目の前にはぐつぐつと煮えたぎる鍋と、夕飯を今や遅しと待っている姉弟達がいる。
私にとってはこちらが間違えようのない現実で。
不要な夢を見ている暇などないのだ。
夕飯の支度の途中だったことを思い出し、鍋の中身をすくってみる。
味見をすると塩味が足らなかった。
塩を振ってもう一度よくかき回して、今度こそ味が決まったことを確認する。
「姉ちゃん、米がないよー」
「え?」
末っ子のひろむが米びつの中身を見せるように蓋を開けると、その中には米粒ひとつ残っていなかった。
(お米、買いに行かなきゃ)
家事に勤しむ姿はまるでシンデレラのようだなと思うと、少しだけクスリと笑えた。
私はひろむを連れて近所のスーパーに出かけたのだった。