愛を欲しがる優しい獣

「それぞれ花火を見に行っているわ。残念だったね。もう打ち上げ終わっちゃったよ」

「そっか…。残念」

鈴木くんはそう言って上着を脱いで、ネクタイを緩めた。ありきたりな仕草なのについ見惚れてしまう。

(今日はスーツなんだ……)

よく考えてみれば、この家でスーツを着ている鈴木くんを見るのは初めてだった。

瓶底眼鏡とよれよれのTシャツ姿を見慣れているせいか、会社モードの鈴木くんにいつもと同じように接しようとすると、違和感があって困る。

普段はすっかり忘れているがキチンとした格好をしていれば、鈴木くんは誰もが認める美丈夫なのだ。

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