檸檬-レモン-



彼の腕の中で、彼の胸に頬をつける。


一定のリズムで聴こえる鼓動が、私を穏やかな気持ちにする。


「あたし、後悔してない…」


「うん。なんだか、不思議な気分です」


顔を上げると、優しい笑みを浮かべる彼と目が合った。


「間違っていたのは、僕の方だ」


どういう意味だろう、考えていると大きな手が、私の頬を包む。

この温かさが、胸をトクンと撫でて。



「クルミさんは、何も悪くない」


溢れ落ちる。もう泣かないと、決めていたのに。


「そんな、こと…」


そんなことない。


「僕は、嘘をつきました」


「え?」


よほど間抜けな顔だったのか、私を見て篠崎さんは小さく笑った。


.
< 80 / 97 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop