檸檬-レモン-

Maiko Wakabayashi




将来の夢は、パティシエ。

オーナーみたいな、皆を笑顔にする素敵なパティシエになりたい。


「お疲れ」


「やったあ!チーズケーキ!」


バイトが終わると、オーナーはいつも私にケーキを食べさせてくれる。

太っちゃうなんて、そんな考えを吹き飛ばしてしまうほど、オーナーが作るケーキは美味しい。

店が終わっても厨房にこもって、試行錯誤しながらケーキを作っているのも知っている。


初めてバイトに入った時は、何だか哀愁漂うお兄さんって感じだったのに。


最近は、なんだかしあわせそう。


「オーナー、何か良いことでもあったんですか?」


「えっ?な、何で?」


チーズケーキを頬張りながら、チラッと見るとあからさまに動揺していた。


「だって、最近機嫌良いじゃないですか」


私はわざと、ニヤッと笑って。

本当は、少し聞くのが怖い。

オーナーのこと、好きになりかけてた。

て言うか、好きだ。

でも、10歳の年の差と、高校生の私なんて相手にされていない事も分かっているから…


「まぁ…色々な」


そう言うオーナーは、柔らかく笑って優しい目をした。

やっぱり、女の勘は当たるんだね。


「彼女ですか?あー、分かった。こないだ連絡先貰った人?」


「う、うるさいな」


胸がちくっと痛む。

でも、あのお客様すごく綺麗だったし。


「じゃあ、今度からお店来たら教えますね」


オーナーの笑顔が、好き。

彼女を好きなオーナーの笑顔が、きっと私は好きなんだ。


もう、オーナーの事は忘れてあげる。

私はまだまだ若いから、たくさん出逢いがあるもの。

でも、オーナーみたいな人がいいなぁ…


「報酬はケーキとクッキーね」


「こら、調子に乗らない」



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