*短編集* 『 - 雨 - 』


ああ……本当にバカだなぁと思う。
俺の表面上の態度しか理解できなくて、その一枚後ろで俺が何を考えているかなんて思ってもいなくて。

見える俺だけが真実だと思って疑わない彼女を、自ら毒蜘蛛に近づいて罠に嵌ろうとする彼女を。
バカで……どこまでも愛しいと思う。

「好きだよ。だから、告白も嬉しかった」

優しい声で言うと。
彼女は驚いた表情でバっと俺を見上げた。

「好きだよ」

驚きと嬉しさに満ちる大きな瞳にもう一度好きの言葉を告げにこりと微笑みかけ……そのまま唇を合わせると、彼女の肩が小さく跳ねた。

――ああ。
だから、我慢してたのに。

「言って欲しい言葉もして欲しい事も、全部俺があげるから」

そっと離した唇で微笑みながら、腕の中の彼女に優しく告げる。

「だから、俺の望みにも応えてくれる?」


――罠はいつだって。
キミへの愛で満ちている。





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