*短編集* 『 - 雨 - 』


「今の告白、練習台とか言ったら怒るから。今度は傘投げつけるだけじゃ済まないんだから」

そう言って睨むと、晴人が気が抜けたような笑顔になる。

「本番に決まってるだろ。
おまえ、俺がきっかけ欲しさに昨日真剣にてるてる坊主作って逆さにしたって知らないだろ」
「知らないよ、そんなの」

バカじゃないの、と思わず吹き出した私の手を、晴人がそっと握る。
温かいその手から……愛しそうに細められる瞳から、六年分の想いが伝わってくるようで……胸の奥が熱くなった。

やっぱり私は……。
どうやっても、晴人が好きなんだ。


「俺の部屋、寄ってく? てるてる坊主見せてやるよ」
「てるてる坊主なんて見た事あるし」
「おまえ……こういう時は素直にうんって頷くもんだろー……」
「知らないわよ、そんなの。
でも……雨宿りはしていこうかな。六年分。
晴人の上だけ、雨降ってるみたいだから」

晴人がさしっぱなしの傘を指さしながら言うと、晴人がははって楽しそうに笑った。


晴人の部屋に入った途端に厚い雲の隙間を縫って覗いた月灯りが窓から入り込み、晴人の瞳に反射する。

月灯りしかない薄暗い部屋。
欲しかった、男としての晴人が私の頬にそっと触れ「好きだ」と今日二度目の告白をした。

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