*短編集* 『 - 雨 - 』


「この傘は気に入ってるの。だから逃避行にも持って行くわ」

美織が手に持つ傘は、紺色に白いレース柄が施されていて、普通の傘よりも丸みを帯びている形のもの。
初めて出逢った数日後、傘を借りたお礼にと俺がプレゼントした物だった。

まるで、空に浮かぶ星の川のように見えたそれに一気に心を持って行かれたのはなぜだろう。

俺にとっては美織に心惹かれた時と同じくらいの引力の強さを持った傘を、美織も、何か感じるモノがあるのか、大事そうに見つめていた。


傘で空を飛べるとは思わないけれど。
美織とだったらきっとどこまでも。

例え雨だろうが関係ない。

降り注ぐ雨がまるで目隠しのようにふたりを隠していた。







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