。・*・。。*・Cherry Blossom Ⅴ・*・。。*・。

*鴇田Side*




―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―*―

―* 鴇田Side *―




「響輔が俺に何を言いたいのか分かってた。


でも、戸惑ってるんだよ。俺は―――





―――お前に、どう接していいか分からない」



イチに……いや、一結に初めて本音を言った。


はじめて―――自分の意思で、娘をこの胸へ抱き寄せた。


本来なら十九年前、イチが生まれてすぐに抱きしめてやるべきだった。


片翼を失っても、まだ大切な何かは俺の中に存在していた。


けれど俺は失った片翼と引き換えに―――青龍会の未来を創ることを選んだのだ。


今更、俺が十九年前に捨てたものを取り戻せる資格などない。




俺はゆっくりとイチを引き離し、立ち上がった。





イチは虚ろな目で俺を見上げ、


グラスで怪我をして滴る血を拭うこともなく寝室に向かう俺をじっと見ていたに違いない。




「新しいランプを新調しないといけないな」




そっけなく言うと、ソファで力なく項垂れるイチの姿が視界の端に映った。


それを見ないフリして、キョウスケとやり合った際に散らかったガラスの破片だの、飛び出た羽毛だのを片付けはじめていると、


背後でゆらりとイチが立ち上がるのが分かった。


そのままドサリとソファに腰を降ろすと、割れていない方のグラスにブランデーを注ぎ入れている。


「イチ、飲み過ぎるなよ」


顔も振り向かずに言うと、


返事はなかった。





< 302 / 439 >

この作品をシェア

pagetop