特殊浴場での特殊な欲情
東京都台東区千束の中の、ほぼ四丁目だけで、吉原と呼ばれる特殊浴場群が形成されている。
男性従業員のほとんどが店の個室に住込み、という特殊なコミュニティゆえ、この中にいれば
生活していくのに不自由は無いように出来ている。

昼食はデリバリーでバラエティに富み、女の子を魔法のように綺麗に撮ってくれる写真屋さん、
タバコから下着までいろんな物を扱うミニドンキー、女性専用ウィークリーマンション、

そして病院。女の子は週に1回、性行為感染症の検査を受けるべし、とされている。
街でナンパして致すより、安全なのかもと俺は思う。

あと驚いたのは、電話で店の名前と薬の種類を言えは、処方箋無しで経口避妊薬を
用意してくれる。たぶん突然行ってもくれるだろう。

バブル経済が弾けて、以前よりは客足も遠退いたそうだ。
元に戻ったとも言えるが、店長は頭が痛いだろう。

暇な日が続くと店長の機嫌は段々と悪くなる。ものは試しとスカウトへ行って見た。
とあるファッションヘルスへ飛込みで入り、女の子と二人きりになったら、

「実は吉原でボーイをしてます。今の稼ぎに不満があれば、こちらへご相談下さい。」
みたいな感じで名刺を渡し、吉原システムを説明する。若い新人はお勧めしやすいので、
ゴム有りでもお客は付くから、最初は楽に稼げるよと。

そして絶対に他言無用をお願いする。そこの店にバレたらタダじゃすまないだろうことは
想像がつく。うちの店も会社も巻き込んでしまうだろう。

あとで店長に話したら、お前のヤル気はわかったが危ないからもうやるな、と言われた。
そして「女は本当に怖いからな!」と笑った。

そんなある日、暇なんで送迎車を洗車していたら、後輩の森尾くんが小走りで来て、
「小野さん、凄いっすよ! も、森村うさぎ が、うちの店に来るらしいっすよ!」

「森村うさぎ…って誰?」「え、小野さん知らないんすかぁ!」 ←ちょっとムカつく…
「先月号の風俗雑誌に〜 小野さんも見てたじゃないっすか! 持って来ますよ〜」

走って店に入って行ったので、俺も店に入った。森尾くんは待合室から雑誌を持って来て、
受付カウンターでページをめくる。カウンターの中には瀬河さんがクールに座っている。

静かに優しい声で「どの娘ですか?」 瀬河さんもクールに気になるみたい。
「ほら、これ、森村うさぎ! 今、吉原のナンバー1 っすよ!」

彼の指の先には天使が微笑んでいた。




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