涙ドロップス 〜切なさを波に乗せて〜
 


それでも松葉杖なしに、二本足で立って歩ける喜びは大きく、

リハビリ中は一度も「辛い」と口にしなかった。



今ではすっかり義足に慣れ、歩行のぎこちなさは見られない。


体育の授業も、普通に参加していた。



学校生活に支障もなく、毎日平和に暮らしている夕凪。


でも、どうしても乗り越えられない問題が、一つだけ残されていた――……




自宅に向け並んで歩く。

潮の香りと波音が強くなって来た。


細道を抜けると目の前に、砂浜と海が開ける。



いつものこの景色は、夕凪にとって残酷だった。


今もサーファー達が波間に数人見えていて、

夕凪は海から視線をスッと逸らした。



夕日が斜めに当たり、夕凪の顔に濃い影ができる。


それを見て、今日も胸が苦しくなった。



サーフィンを失い、夕凪は覇気がなくなってしまった。


一見元気そうだけど、元気じゃない。


きっと心には、ポッカリ穴が空いているのだと思う。



その穴は、私には埋めてあげられない。



夕凪の手をギュッと握った。


慰める言葉が見つからない。


新しい夢を見つけようなんて言えない。


サーフィンに代えられる夢は、
ないような気がしていた。





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