路地
結局、美織は事件の全てが片付いたあと姿を消した。


当初はマスコミも大騒ぎした今回の事も日々次から次へと起こる新しい事件に忙しくかき消されて行った。


「何もないね…」


精神科医城崎はあの鉄鋼所のあった場所へ来ていた。


そこに今は何もない。更地にされていた。初めから何もなかったかのように。


ただ、隅の方で伸びた草が事件からの月日の流れを思い知らせる。


城崎は未だ美織を気にかけていた。それは精神科医としてなのか、それとも別の感情が故の事なのかーーー


「狭い路地に囚われているのは僕の方か。」


自嘲気味に笑う城崎。


路地を抜け大きな通りへ出ると城崎は空に向かい一つ大きく息を吸った。



どうか彼女もこうして空を見上げていますように。

どうか彼女も路地を抜け出し堂々と大通りを歩いていますように。


城崎は精神科医としての顔を貼り付けると地下鉄の入り口へと足を早ませた。














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