追伸,私は生きています。

入ってはいけない、森

見渡す限り、山、山、山。
真っ青で底も見れる川。
人は誰もいなくて、蝉の声が四方から響いた。
田畑が広がる地を一歩一歩、跳ねるように進んでゆく。

ふと、こちらを見つめる子供の猪を見つけた。
目が合ったので、手を振ってその場を後にした。



「おもしろいくらい何もない。」

大空を飛ぶ鳶(とんび)を掴むように手を伸ばして呟く。

何もない独り言は、蝉の声にかき消された。


「みーん、みんみんみん…………」



蝉の声に重ねて歌うように声を出したその時。





「おや?おおい!そこのお嬢ちゃん。
初めて見る顔じゃの。近くに引っ越してきたんか?」

自転車に乗った白髪の多いしわくちゃの老人が背後から急に呼びかけてきたのだ。
なんだ、人、居たじゃないか。



「はい。今日からこの近くの桐谷さんの家におせわになることになりました。
夜野 蛍(やの ほたる)です。
よろしくおねがいします」

「おお。よくできとる子だねぇ。
儂は山本じゃ、こんな老いぼれじゃが、よろしく頼んますねぇ」

「はい。宜しくお願いいたします」

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