晴れ、時々、運命のいたずら



打ち合わせは無事終わったが、その最中も愛姫は全く話が耳に入ってくるような状態ではなかった。



「ちょっと、愛姫ちゃん。大丈夫?話聞いてた?」



不満そうな顔をして典子が尋ねてくる。


そんな典子に愛姫は真剣な表情を向けた。



「典子さん、お願いがあるんです。」



「そういえば、打ち合わせの前に話があるって言ってたわね。」



「明日の仕事、全てキャンセルして貰えませんか?」



愛姫からの突然のお願いに典子は思わず鼻で笑った。



「何言ってるの?明日は朝からテレビ収録にラジオも2本あるし。キャンセル出来る訳ないでしょ。」



「分かってます。無理を言っているのも分かってます。けれど、私、行かなければならないんです。」



「仕事以上に行かなければならない所なんてある訳ないでしょ。」



「私…、香川に帰らなければならないんです。」



真剣な表情で訴える愛姫に対して、今度は典子が真剣な表情を向けた。



「帰れる訳ないでしょ。明日はあなたを売り込む絶好の機会なの。このチャンスを逃したら、もう次はないのよ。どうしたの?親でも死んだの?」



「いえ…。」



「あのね、愛姫ちゃん。この世界は、食うか食われるか。ちょっとでも隙を見せたらもう終わり。その為に私は必死に仕事をかき集めているのよ。分かる?私の苦労?分かってないわよね。そんな馬鹿な事言ってる暇があるなら、ボイストレーニングでもしたらどう?」



「馬鹿な事って…。」



聞く耳を持たず、歩き出した典子の背中を見て、愛姫は唇を噛みしめた。



(私は帰りたい。今すぐ香川に帰りたい…。)


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