学園マーメイド

「バンビと一緒にいたいんだろ?」
「……分からない」



真後ろで聞こえる声が優しくて、瞳からは絶えず涙が零れ落ちる。



「“傷つけたくない”、そんなのはどうでもいい奴だったら思わない。だけど、バンビは蒼乃の特別な人間だからそんな感情が生まれたんだ」
「わか…、ない。雪ちゃん、分かんないよ」
「蒼乃、こっち向け」



両肩を掴まれ、ぐるりと雪兎の方を向かされる。
涙でぐちゃぐちゃになった顔を優しく且真剣な瞳で見つめられる。
それから逃げるように眉を寄せて下を向くと、涙が床に落ちた。



「分かんなくない。お前はもう分かってる。だけど、感じた事のない物だから戸惑ってるだけなんだよ」



心臓が小さくとくん、と音を立てる。
ああ、もしかしてこの事を言うのかな。
陸嵩の事を思うだけで楽しくて嬉しくて安心して。
陸嵩が私の事を思ってくれるだけで苦しくて悲しくて不安になる。
離れようとしても、心の奥底では離れたくないと思ってしまう。
傍にいてもらいたいと同時に、傍にいたいと思ってしまうこの妙な感じ。
人はこれを“愛”と呼ぶんだ。



「雪ちゃん」



声が震えて上手く話せない。



「……馬鹿だね、あたし」
「馬鹿じゃない。蒼乃は馬鹿じゃないよ」
「馬鹿……、だ」



手に抱いていたタオルが落ちるのと、両手が自分の顔を覆うのは同時だった。
ぽた、ぽたり、顎から落ちた涙は床に小さな水溜りを作る。
私の体は安定なくグラリと揺れ、床に腰を着いた。


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