学園マーメイド


「じゃあ、俺は先に逢坂さんのところ行ってるから。ゆっくりしておいで」



川上は私の髪の毛を緩く撫でると、背中を向けて去って行く。



「応援、ありがとね」
「やっぱ、マーメイドなだけあるな。泳ぎが一番綺麗だった」



雪兎が感心する父親の様に言うのでつい笑ってしまう。
マーメイドにつなげるところは納得いかないのだが、嬉しそうなのでよしとする。



「ぼ、僕初めてなんだ!園田さんが泳いでいるの見るの」



弾んだ声がして、梅沢を見ると興奮気味に拳を握って荒く息を吐いている。



「そうなんだ」
「うん!か、感動した」



よほど彼の涙腺は弱いのだろう(瞳が濡れてやはり小動物のようだ)。
こんなことでいちいち感激して涙を流してもらっては対応に困る。
苦笑いで感謝の言葉を言うと、逆にこちらこそありがとうと返される。
……なんだそりゃ。でも、やっぱりこっちが、ありがとう、だ。



「おめでとう!」



陸嵩が笑う。



「ありがとう」
「緊張した?」
「……んー、まぁ。でも大丈夫な気がしてた」
「あー、蒼乃らしいね」



隣に並んだ陸嵩が笑うと、自然と笑顔になる。
二人よりも近い距離で話すことに違和感はなかった。
この距離が心地よく、安心する。
二人で笑いあっていると、ゴホン、とわざとらしい咳払いが聞こえ、会話をやめる。



「俺たちがいるっての忘れんなよ、バンビ」



平手で軽く陸嵩の頭を叩くと、雪兎は鼻から息を吐く。
それに反撃するかのように陸嵩が私の手をぎゅっと握り締めて、子供みたいに舌を出す。



「彼女といちゃいちゃ出来るのは、彼氏の特権です」



“彼女”、“彼氏”。
今まで聞かない響きにちょっとくすぐったさを感じる。







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