学園マーメイド


そう、あれは冬休みに入る前、実際に川上に言われた言葉。
何故か鮮明に、そしてはっきりと覚えている。
息を吸って吐く。
やはりいつもとは違う空気が入り込んで、気分を一気に降下させていく。
何もかも、ここにいると滅入ってしまう。



「……あと、5日」



小さく開いた口で呪文のように唱えてみる。
あと5日の辛抱だ、と言い聞かせるようにして。



広い部屋、広い庭、広い居間(だいたい、どうしてこんなに広いのか理由も知らない)。
冷たい家。
兄がまだ生きていた頃から感じていた事だったけど、兄がいなくなる事でこの家はそれを更に強めた気がする。
豪華な造りの階段を下りて、広い部屋に置かれた綺麗なお仏壇に手を合わせる。



「……兄さん」



この家の中でも唯一、温かみを増す場所だ。
前まではこのお仏壇に座り、手を合わせると罪悪感や悲観的な考えしか出てこなかったけど、今は違う。
支えてくれた人たちのお陰で、私は初めて本当の意味で兄と向き合えたのだ。
素直にお礼を言うことや、近状報告をすることも出来た。
瞑っていた瞳を開け、幼い兄の写真を見る。
優しそうな笑顔はいつも私の胸の中にいて、励ましてくれる。
語りかけるように自分も笑顔を作ると、後ろで人の歩く音がした。
反射的にビクリ、と肩が揺れ、振り返る。



「あ……、お、おはよう」



ぎこちない笑みを見せたのは、義母だった。
私は挨拶代わりにぺこり、と頭を下げる(これがいつもの日常だ)。
すると、いつもはまたぎこちない笑みを見せて去っていくだけだった義母が、遠慮がちに此方に近付いてきた。
通常とは違う行為にとっさに身構えるようにして立ち上がる。




< 206 / 282 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop