学園マーメイド



「……でも、やっと、会えた。元アスリートって言うコネを使ってでも、会えた。……本当に会いたかった。会いたかったんだ」



グルグルと思考回路、回る。
この人から向けられているのは“愛”だった。
感じたことのない、親から向けられる無償の愛。

……分からない。

この人が父親なんだって分かる、でも分からない。
私、この人のなんなのだろう。



「お前が辛い思いをずっとしてきた事を沙織さんから聞いて、凄く悔やんだ。だけど、思ったよりも尾神の圧力は強くて……、お前の父親だって言えなかった。ごめんな」



再び襲われる不快な渦。
体内でうごめいて、侵食されていくような感覚。
分からない分からない分からない。
一体、何をどうしたらいいの。



「……蒼乃、俺と家族にならないか?」



酷く大きな音を立てて心臓が跳ねた。
“家族”?
偽りの家、冷たい家、生きる場所は水泳だけ、兄はもういない。
苦しい、悲しい、助けて欲しかった、あの“家族”は偽りの“家族”だったから。
回る、回る、たくさんの感情。
意味のない家族じゃなく、本当の家族?
……分からない。




< 230 / 282 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop