学園マーメイド


「嫌じゃなかった?」
「…嫌、ではないよ」


苦笑いで返すと、学校からチャイムが鳴り響く。
ホームルームの始まる5分前のチャイムであり、遅刻にうるさいこの学校にとって1分でも遅れたら何を言われるか。
そんな事を思い、二人で顔を見合わせて慌てて走り出した。
ギリギリ間に合ったものの二人して息があがってしまった。
校門を過ぎた所で静かに顔を見合わせて笑う。
それと同時に懐かしい味が体全体に広がっていく。


懐かしい、…でも思い出したくない。


ゆっくりと陸嵩から視線を逸らし、学校へ入ろうと促した。
“友達”嬉しくも怖くもある響きにまるで壊れ物を触るかのような気持ちがあって、どう扱えばいいのか分からない。
後ろに陸嵩の気配を感じながら教室へと続く階段をのぼって行った。
矛盾している自分の感情に吐き気がする。


そんな気持ちを知ってか知らずか、奴は私を見つけると必ず声を掛けてきた。
自分で言うのもなんだが、私は好かれるタイプの人間ではないし、水泳部の一件から敵となる存在だ。
誰がいい顔をして私を見てくれるだろうか、そんな人はいない。
そんな中でも声を掛けてくれる陸嵩に申し訳ない気がしてならない。
だがそんな事を言えば彼は全否定をするだろう。
…言えない、言わない。
今だってそうだ。
間休みにメルアドを教えると、さっそく“お昼一緒に食べよう!テラスで待ってる”と、有無を言わさない強制的なお誘いが(そもそも誘いなのかも分からない)。
少々困りつつも光にメールをすると“いいじゃない、私は先輩誘って食べるし言ってきなよぉ”とハートだらけの絵文字で返ってきた。
流されている…、奴のペースに流されている気がする。
が、しょうがない。
上手い断り方も見つからないし、誘ってくれた相手に何より失礼だ。
四時間目が終わるチャイムと共に、イスから腰を上げた。



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