学園マーメイド


「いやいや、この色で地毛は可笑しいでしょ。染めてんの」
「校則違反じゃない?」
「んまー、そうなんだけど。功績残してるから問題ないっしょ」


ケラケラと笑う顔を見て、そういう問題じゃないだろう、と突っ込みをいれたくなった。


「そんな事はどうでもいいんだ。あのさ、今日部活見に行ってもいい?」


ミルクココアを口に含んですぐの言葉に、危うく吐き出しそうになった。
ごくり、と喉を鳴らしてそれが通り過ぎるのを感じて口を開いた。


「どうして?」
「学校一、泳ぎの上手いマーメイドさんに興味があるから」
「……うーん」
「都合悪い?」


都合悪いとかそんな問題ではない。
戸惑い、と言うのが一番大きい問題だ。
第一に部活以外の男に話しかけられたのは初めてだし、初対面の男に泳ぎを見せてと言われても“はいどうぞ”なんて素直に言えるものではない。
それに…、自分と話していて変な目で見られてしまうこの人の事を考えると、また罪悪感で胸がいっぱいになる。
何も言わず眉を寄せている私を見て男は笑った。


「大丈夫だよ、邪魔しないから」
「いや、そんな事でなくて」
「じゃあ何?」
「…あんまり、あたしと関わらないほうがいいよ」


苦笑いを含め笑うと、男はまん丸な目を更にまん丸にした。
そして何か言おうと口を開けたのだろうが、遠くから大声を出す光を見たかと思うと素早く席を立ち上がって笑った。


「4時にプールサイドで」


来た時と同じ逆光を浴びながら出て行く背中を眺めて、溜息。
忠告、分かってもらえてなかったようだ。


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