おててがくりーむぱん2


手には、有名洋菓子店のケーキ。孝志は背筋を伸ばして、チャイムを鳴らした。


「はーい」
ステンドグラスのついた扉ががちゃっと開いて、母親が顔を出した。


「おかえりなさい」
白いブラウスにベージュのスカート。髪に緩やかにパーマをかけて、年齢の割に若く見える。


「ただいま」
光恵はそう言って、玄関に入る。孝志も後ろからついて入って来た。「失礼します」


「いらっしゃいませ。お暑い中、ご足労いただきまして、ありがとうございます」
母親は丁寧にそう言うと、孝志の顔をまじまじと見る。それから「あれ?」と首を傾げた。


「こちら、佐田孝志さん」
光恵は孝志を紹介した。


「佐田……孝志……さん?」
「はい、よろしくお願いいたします」
孝志が頭を下げる。


「はあ」
母親は間の抜けたような返事を返して、それから慌てて「どうぞ」とスリッパを差し出した。


「お邪魔します」
孝志は緊張していることをみじんも感じさせず、パーフェクトな振る舞いで家に上がった。


< 10 / 190 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop