おててがくりーむぱん2

7



なぜ彼女を見つけられたのか、わからない。
あまりにもたくさんの人たちの、顔、顔、顔。
明滅するフラッシュ。
大きな歓声。


その中で、なぜ彼女を見つけられたのか。
孝志の身体が思わず前のめりになる。
呼びかけて、手を振って、その柔らかな身体を抱きしめに、すぐにでも飛んで行きたい。


でも俳優としての自尊心が、自分の衝動を押さえつけた。


「表情を気にしなさい」
志賀の言葉が、フラッシュバックのように甦る。


ここは仕事場。
求められる姿を見せる。


彼女が眼鏡を取って、涙を拭うのが見えた。


ごめん。
本当にごめん。
こんなことになるなんて。


不安定な心を隠し、孝志は光恵に微笑んだ。
特別な女性だと、気づかれてはいけない。
誰にでも見せる、俳優佐田孝志の顔で、光恵に微笑んだ。


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