おててがくりーむぱん2


携帯から電話がなった。
孝志は掌で携帯を包むと、しばらく振動を味わう。


ミツからでありますように。
それから、ミツからではありませんように。


えいやっと着信を見ると「佐々木さん」の文字。
ドラマでお世話になった監督の佐々木だ。


「もしもし」
孝志は間延びをしたような声で、電話にでた。


「もしもし? 孝志?」
「はい。ご無沙汰です」
「お前……大丈夫か?」
「平気ですよ。あはは」


孝志はなんだか理由もなく愉快になってきた。訳が分からない。


「今何してる?」
「えっと、ビデオ見てます」
「一人?」
「もちろんです」
「じゃあ、いまからちょっと出てこいよ」
「え〜」


孝志はベッドの上に散らばった菓子袋を見ながら「めんどくせ」と思う。


「ひどい暮らししてんだろ。わかってんだぞ」
「あはは」
「久しぶりに外に出てこい。気持ちを切り替えるいいチャンスだぞ」
「え〜」
「え〜じゃねーよ。渋谷の「しばたん」って店で待ってるからな」


佐々木は孝志の返事を待たず、一方的に電話を切った。無音の携帯を見つめ、孝志は困惑する。


行かなきゃまずいかな。
今更俺に、何の用事だろ。


孝志は自分のだらけたジャージ姿を見おろし、それからのっそりとベッドから立ち上がった。


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